【第1幕】 スポーツとライフスキル-白石 康次郎-

第壱幕 白石康次郎 「スポーツとライフスキル」

スポーツの競技性には、人を活性化させ成長させるどんな力があるのか?
7つの海を制覇し、あらゆる学問にも精通した海洋冒険家と学ぶ。

海洋冒険家と成るに至った経緯と背景にはどんな壮絶なストーリーがあったのか

 この海はどこまで続くのだろう?水平線の向こうに何があるのだろう?という疑問を持った少年時代。その疑問の答えは、自分の目で確かめるしかない。それが全てのはじまりだった。教室は船であり、グラウンドは太平洋だった水産高校時代を過ごし、卒業後は、人生そしてヨットの恩師でもある故多田雄幸氏(単独世界一周ヨットレース優勝)に弟子入りをする。お金持ちでもない、ヨットに関係する仕事もしていない、個人タクシー運転手の師匠からは、ヨットの技術もさることながら、様々な『生きる技術』を教わる。今でも大切にしている「ヨットをもっと楽しみなさい」という師匠からの教え。それは「楽(ラク)をしろ」ということではなく、血のにじむような努力をして、あらゆる経験を積んだ人だけが、どの状況でも楽しむことができる。その境地までいきなさい、ということだと解釈し、心に刻んでいる。


熱きロマンを駆使し、如何にして人・モノ・カネを獲得していったのか?

 どうすれば日本人が世界最高峰のヨットレースに出場できるのか?目標とするクラス?は新艇を用意するだけで3億円。6億円の資金を確保できれば優勝を狙える、という世界。それを目指し、白石康次郎は高度なコミュニケーション・スキルで広い人脈形成とスポンサー獲得を果たしてきた。師匠の代から付き合いのあったスポンサー、白石康次郎に惚れたスポンサー、誰に対してもリスク・現状・夢などを全て正直に話し、絶対に偽らない。スポンサーが自分に求めることは、それぞれ異なることを認識し、その思いに応えてきた。企業は栄枯盛衰。良いときもあれば悪い時もあるのが当然であり、いつ、いかなるときにスポンサーになってもらえるかは読みきれない。都合の良いときに付き合うだけでなく、どんな状況の時も変わらない付き合いを続けることが大切であり、また、会社と付き合うのではなく、人と向き合うことこそ真髄だと語る白石。
「相手の想いを良く聴く」
「嘘、いい加減なことは言わない」

 これが白石の考え方の根底にあり、長年の夢であったクラス?での出場を果たし、更に2位という快挙を成し遂げた。
 更に、白石には独自のスポンサー獲得法がある。それは「世の中の風を読む」こと。スポンサーが株式会社の場合は株主を気にする、つまり大衆を気にする。世の中の役に立たないと企業はこちらを向いてくれない現実に対し、夢や希望を説いても意味は無い。自分は世の中に対し何ができるのだろうと考え、その答えを見つけた時に次へ進めると語った白石はエネルギー問題が叫ばれる昨今、自然スポーツであるヨットに風が吹いていると時流を読んでいる。


熱きロマンだけで生計は立てられない、どうやって自らを養い家族を養っているのか?

 レースが無い時期の生計は、スポンサー収入、肖像契約、イベント出演などあるが、一番大きいのが年間80~90回をこなす講演会。自分と同じ話ができる人物はいない、つまり完全なオリジナルストーリーであることが、毎年繰り返し需要を生む要因と分析している。
 また、講演とは、参加者(クライアント)は何が聞きたいのか?何を求めているのか?そのポイントを探り、自分が経験し、考え、それを人生訓として話をすることに意味がある。その結果が今につながっていくことも解析済み。


後記

 白石流仕事術の極意とは、相手が何を考え、何を求め、そして自分は何ができるのかを的確に分析することと言える。地道に人脈を築き、少年時代からの途方もない夢を叶えた冒険家は、大胆さと理論を兼ね備えた戦略系エンジニアだった。
 そんな白石が伝えたいこと。それは「夢は心の中にある」ということ。人はよく夢が見つからないと嘆くが、頭を使わず自分に問いかけ、心で感じることが最も大事なことである。そして、もう1つ。「運命は避けることができないが、運命に対する態度は皆さんに委ねられている」という事実。危険や問題に直面した時、どう対処するかは自分自身が決めることだと気づいた時、ピンチはチャンスに変わり、それは無限大に広がっていく。
(文責 勇者の鼓動 僧侶 宮本佳代子)

塾長通電

 
 本セッションでは、「スポーツ×競技」の掛け合わせが生み出すたくさんの不可視的価値のうち、「人の成長」「人を活性化させる」価値に着目し、「白石康次郎」という「ひと」に眼前で触れてもらうことで、可視化したつもりである。(つまり 白石康次郎の存在そのもの=スポーツ×競技 が生み出す価値のひとつであるということ)
 白石氏の冒険家として、男として、人として、その魅力はいうまでもなく壮大且つ爽快である。(だから私は、多くの方に知ってもらおうと毎年毎年しつこく招聘しているのですが・・・笑)。  しかし本講座は、それを感じてもらうことで終始することが目的ではない。「スポーツ×競技」が生み出す素晴らしき価値に触れることで、「スポーツ×競技」という掛け合わせが生み出す価値について再考してもらうことこそが本来目的である。そして今回着目する価値は特に、「人の成長」や「活性化・教育」という観点から生み出される価値である。
 但しこれはその競技における勝敗が直接生死に関わるか否かによって変わってくるものであり、本セッションは生死に関わる競技が生み出す価値に触れた。ロマンをエンジンに、自らの心で、足で動いて「人・モノ・カネ・情報」を確保、調整、駆使して戦いに挑み自分なりの方法論で成果を達成する。そこには「自立」ではなく、起業家的精神に通じる「独立」の精神と高度なマネジメント能力が育まれていた。そして今回は特にそのうちのひとつ「効果的コミュニケーションスキル」(WHOが定義する10のライフスキルのうちのひとつ)が高度に完成された様子に生で触れた。
 これは白石氏ひとりに帰結するものであろうか?否、そうではないと私は思う。いやそうしてしまっては、価値はいつまでたっても希少価値に留まり、潜在的なままである。(無論白石氏自身であるからこそという部分も多々あるが。)そうしたスキルを育む普遍的価値を知り、それを身につけるに至る普遍的方法論を我々は追究していかなければならなない。
 今の日本スポーツ界に足りないもの(いやスポーツ界には限らないかな)・・・それが「価値向上」、「価値創造」へ向けたマネジメント能力であることは誰もが知ることであろう。「勝利」を最大価値化する世界は「勝ちでメシが食える」構造が完成されたトッププロスポーツという世界だけでいい。
 教育或いは人の成長を期待するスポーツの世界、いわゆる学校スポーツにおいて最大価値化し、最大成果として掲げていきたいことは、やはり白石氏が体現した高度なライフスキルであり、ひとやまち、国をマネジメントしていく能力の育成ではなかろうか。「学校スポーツ」は世界でもまれな日本独特の「文化」である。
今回のセッションが、今後の学校スポーツ指導現場におけるあり方、或いは日本教育のあり方に対する再考の機会に少しでもなっていてくれれば幸いである。

勇者の鼓動 塾長 松田裕雄

講師プロフィール

■プロフィール
白石康次郎(しらいしこうじろう)
1967年5月8日生まれ
神奈川県鎌倉市出身
公式ホームページ:http://www.kojiro.jp/
公式ブログ:http://blog.excite.co.jp/kojiros/

少年時代に船で海を渡るという夢を抱き、三崎水産高在学中に単独世界一周レースで優勝した故・多田雄幸氏に弟子入り。レースをサポートしながら修行を積む。
1993年、当時26歳で、ヨットによる単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立。その他数々のヨットレースやアベンチャーレースでも活躍した。
2006年、念願の単独世界一周ヨットレース“ファイブ・オーシャンズ”クラス?(60フィート)に参戦し、歴史的快挙となる2位でゴール。
更に2008年フランスの双胴船「Gitana13」にクルーとして乗船し、サンフランシスコ~横浜間の世界最速横断記録を更新した。
現在は、2012年11月に開催される最も過酷な世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローヴ」への出場を目指している。
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