【第四幕】 半田 裕 スポーツとグローバル戦略

第四幕 半田 裕 スポーツとグローバル戦略

第二次産業である製造業は、第三次産業であるスポーツと
どう結びつくことでマーケットを創造してきたのか?
世界の二大大手ナイキ・アイディダスの戦略に学ぶ

【1】秘訣は権利の最大化!価値の最大化!

 「スポーツ」「ビジネス」「スポーツビジネス」と3つの現場で特異なナレッジを自分のものにしてきた半田氏。そのナレッジを存分に活かして行った、アディダス、ナイキというグローバル企業のマーケティング戦略の実態を語る熱い講義となった。
まず、アディダスジャパン設立時のメンバーの一人として成し遂げた数々の実績の中から、2001年12月にスタートした2002年日韓サッカーW杯のマーケティング戦略を紐解いた。戦略のPHASEは3つ。
・PHASE1 W杯公式ボール発表 
・PHASE2 日本代表公式ユニフォーム発表 
・PHASE3 イベント開催    

 各PHASEを実行する上でアディダスジャパンが必ず組み込んだ観念。それは「差を見せつける」、「ルール(既成概念)を破る」この2つだった。他社にないものをやってこそ、消費者の心に刺さるものが生まれ、成長していく。中村俊輔選手を起用し、渋谷の巨大壁面で展開した日本代表オフィシャルユニフォームのプロモーションや、 キリンビールとタッグを組んだ“勝ちTキャンペーン”、日本航空とのコラボレーションなど、『日本ブルー化計画』を立案・実行。特に“勝ちTキャンペーン”は、当時110万着のTシャツを販売、11億円の売り上げを誇り、今もなおビッグコンテンツとして継続されている。
 FIFAのオフィシャルスポンサーであり、日本代表のオフィシャルスポンサーでもあるというアディダスジャパンにしかない立場を使い、稀に見る規模で既成概念に捉われないオリジナルのマーケティング戦略を打ち出していった。

 アディダスジャパンでの手腕を買われ、2002年にナイキジャパンに移籍。サッカー、野球、テニスなどの有名選手をナイキアスリートとして獲得し、選手を活用したプロモーションを発案・実行した。世界を代表する2つのスポーツメーカーでのマーケティング戦略に関する大きな違いを半田氏は明確にこう表した。

 アディダスは上(FIFA)からプロモーションを組み立てる。
 ナイキは下(選手)からプロモーションを組み立てる。
 一見すると、真逆の方向からプロモーションを仕掛けているように思える。しかし、半田氏は「大きな権利を持っている人間(組織)は、その権利を最大化してプロモーションするべき。権利を買ってもプロモーションやキャンペーンがついてくるわけではない。権利を買った側が価値を最大化する戦略を練ることは、グローバル戦略において必須であり、やって然るべきこと」と、マーケティングそのものの考え方にある共通項を説いた。


【1】 ブランドマーケティングは、ブランドヒート!とセールスアクセレレーション!!

 今回の講座のディスカッションテーマ
「日本に留まらず全世界を対象としたスポーツコンテンツを活用したプロモーション活動の内、最も効果が高いと感じた活動を一つ挙げよ」

 各グループから印象に残っているプロモーション活動が挙げられ、いくつか新しい提案もなされた。半田氏は「他人には負けないモノを作る=スペシャリストになることがプロモーションを発案する上で重要であり、更に、いかにネットワークを作って実行に移していき数字を作っていくか、そこがまさに問われるところである」という言葉で締めくくった。

「Brand heat!」
「Sales acceleration!」


  この2つの言葉を実現させるマーケティング戦略。それは、唯一スポーツが与えられる“席から腰が浮くようなインスパイアされる一瞬”にあるという。つまり、スポーツを通じて勇気を与え、未来を生きていく力を与える。この感覚こそ、B to Bのビジネスをしていく上で、他の産業と大きく差別できる点。現在、スポーツの仕事に直接携わっていなくても、これからスポーツに関わることは自分次第で十分可能なことである。スポーツを通じて夢を共有できる、多くの人の心を揺さぶるプロモーションを展開できる人物が今、求められている。
(文責 勇者の鼓動 僧侶 宮本佳代子)

塾長通電

 第四幕半田氏の講座では、製造メーカーによるブランドマーケティングが、スポーツの価値で推進されていく際に、Bto Bビジネスが他にはない多彩なバリエーションを以て展開されていくことがよく理解できたと思います。Bto Bのスタイルが有機的に行われると、大変夢があり、スケールが大きく魅力的なものになることは一目瞭然でした。
 しかしその神髄にあるのは、「権利と価値を最大化」する姿勢!!であり、やはり「ヒト」にある!ということも半田氏は強調されていました。日本のスポーツ界には「競技団体」という一般のビジネス界には無い特殊な装置があり、ここが実はスポーツの市場創造の源泉となる「普及・強化・育成」の成長性の鍵を握っているのです。
 競技団体は民間企業の価値を、民間企業は競技団体の価値をそれぞれがWin-Winになる価値の最大化へ向け、それぞれの権利を最大活用できるような関係が構築できれば、よりよいスポーツ産業界が創造されていくのではないでしょうか。無論その関係の中には自治体や国も入ってきます。
競技団体やスポーツ界の未来へ向けた熱意は、いわば「ブランドヒート」!!こうした熱い想いは、失敗してもなお挑む東京五輪招致活動を見ていてもよくわかります。しかし一方で「セールスアクセレレーション」!!売上・支持率・競技人口・実施率等具体的に「ヒト」「カネ」の動きを触発していく顕在的且つ有効な働きかけが今求められています。
そのためにこそ、この権利の最大化と価値の最大化を通じた産学官民等の良きパートナーシップがスポーツ界には求められるのではないでしょうか。

勇者の鼓動 塾長 松田裕雄

講師プロフィール

■プロフィール
半田 裕

Office Strategic Service(株)代表取締役社長
元アディダスジャパン(株) スポーツプロモーション&イベントディヴィジョン マネージャー
元(株)ナイキジャパン・スポーツマーケティングディレクター